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ノーベル医学生理学賞を2年ぶりに日本人が受賞!

猛暑に大雨、台風、地震など、今年の日本は荒れてましたが、10月1日から始まったノーベルウィーク初日で快挙ですね。

2016年に受賞された東京工業大学栄誉教授の大隅良典博士に続き、今年は2年ぶりに京都大学名誉教授の本庶佑博士と米テキサス大学のジェームズ・アリスン博士が同時受賞といううれしいお知らせが届きました!

本庶博士の「あふれる情報を鵜呑みにしないこと」、「基礎研究こそ大事である」ということは、基礎学問を学んできた人間としては、恩師からも常々言われていたことでした。

自身の経験からは、原子核理論の少数多体系の現象論的なアプローチをしており、数値計算が必須でした。そのときに、プログラムの結果から物理を導く際に、細心の注意を払い、自分だけは自分の結果であっても最後まで疑いなさいという恩師からの言葉を思い出しました。

論文や学会での発表したとすると、自然科学は再現性が重要なので、手法にほぼ限らず、ある物理現象を説明できることが「現時点で」正しいと、みなが認める結果となります。そこで中途半端やミスを一度でもやってしまうと、論文の結果を誰もまじめに取り上げなくなります。そうなると、研究者としては致命的なダメージです。どんなに良い研究をしても、なかなか認められるまでに時間がかかります。それはビジネスでも共通していると思います。

そのため、恩師は厳しく、何度も、それこそ重箱の隅をつつくようにダメ出しをされた経験が社会人となっても活きています。

本庶博士の会見を聞いていると、そのようなことが思い起こされ、真の研究者とは、みな同じことが自然と身についていくものなのかもしれないと感じました。僕自身はそこに足を踏み入れることなく、研究者をサポートする道を歩んだのですが、まだ道半ば。

さて、本題の今回のノーベル賞についての決め手は、「がんの免疫治療」という画期的ながん治療研究の発展に大きな寄与を果たしたことでした。
物理畑の人間なので、門外漢として今回の免疫治療というのは聞きなれない言葉で興味が湧いてきました。

初歩的に、免疫という働きはだれしも持っているものなので、これは何となくしってます。では、何故今回ノーベル賞という世界で最も権威のある賞を受賞したのか気になりました。

 受賞のきっかけとなるのは、本庶博士らがT細胞を調べているときに見つけたある発見です。内容としては、T細胞が死んでしまうときに、その表面にあるたんぱく質がよくみられることから、その遺伝子を調べたところ、それがT細胞の免疫を抑制する働きがあることがわかりました。

そこを突き詰めると、何故これまでのがん治療で抗がん剤が効くものと効かないものがあるのかということがわかったのです。

まずがん細胞は、普通の細胞が何らかのきっかけで異常をきたし、増殖しながらまわりの正常な細胞まで傷つけることが原因となって私たちを苦しめています。

そのがん細胞を排除すべく、免疫細胞が活性化することで、もとの正常な細胞の状態に戻そうと私たちの体は頑張ります。重要な働きをするのが、免疫細胞、ナチュラルキラー細胞と白血球などです。

博士らの研究でわかったのは、がん細胞はその免疫細胞の1つであるキラーT細胞の攻撃に対して、ブレーキをかける仕組みをうまく利用していることでした。もうすこし詳しく説明すると、T細胞にあるたんぱく質の1種、「PD-1」というものが免疫作用に対するブレーキになっているということがわかったのです。

この働きのおかげで、免疫細胞自身が過剰に反応して、正常な細胞などを攻撃しないような仕組みになっており、そこをうまくついたがん細胞がPD-1と作用して免疫にブレーキをかけ、がん細胞に攻撃しないようにしていることがわかったのです。

 このことから、本庶博士らは、PD-1をがん細胞より先に抑えてしまう抗体をみつけ、ブレーキ機能を外し、がん細胞をきちんと認識して攻撃できるようにしたというのが、今回の受賞の大きなポイントです。

さらに、免疫治療という方法自体は、この研究以前からも存在はしていたようですが、高額な治療のわりに効果がわかりにくいことが問題でした。ですが、本庶博士らの発見によって、より確実に効果が望める方法が見つかったことで、この治療方法が確立され、世間にインパクトを与えてくれました。

この免疫治療に用いる抗体は「オプジーボ」という製品名で臨床が開始され、2014年9月から、まずは比較的発症数の少なく難治性の皮膚がんなど悪性黒色腫などに保険適用が開始されています。それでも、当時は100mgで約73万円と高額なものだったようで、すべての患者が使えるわけではなさそうです。しかし、2018年4月の厚労省の薬価改定では、約28万円まで引き下げられ、なおかつ、がんの種類も肺がんや胃がんなど7種類に増え、その適用範囲も今後増えていくようです。それでもまだまだ高額な治療ですので、広く使えるようになるになってほしいものです。

また、副作用に関しても気になったのは、比較的少ないとのことながら、ほかの抗がん剤との併用によっては重篤な副作用が起こったという事例も報告されていますので、使用については医師の注意が必要ですね。

ここまで知ると、まるで夢のような薬に感じます。

がんの治療は「外科手術」、「放射線療法」、「化学療法」が広く知られていますが、どれも患者の体への負担が大きいものでした。今回の発見によって、新たに「がん免疫療法」という方法が追加され、がん治療がまた一歩大きく前進しています。

とはいえ、まだまだ高額な治療であることは確かなので、今回の受賞がきっかけとなって、より多くの人が今回の研究の恩恵を受けれる日が近いことを願っています。

今日はノーベル物理賞の発表です。まもなくですが、個人的には光格子時計の香取秀俊博士が受賞されるのではないかと期待しながら待ちます。

時計の概念を巻き直す「光格子時計」 | 東京大学

最後に、隣の研究室で議論いただき、社会人になってからも企画から出版まで携わることができた井上研三博士の言葉を紹介させていただきます。

何度か紹介していますが、本庶博士の言葉とも共通した考えが述べられており、本当に心に響きますので、ぜひご一読を。

「新しい概念が生み出されたり,あるいは,新しい原理が認識されるようになるときに,決定的な役割を果たす力は,それまでに積み重ねられてきたもろもろの基礎となっている,基本的なものの考え方の中に潜んでいる.
(中略)
現代社会はめまぐるしくその環境を変化させながら,絶え間ない進化変転をしている.その変化が将来にわたって望ましい形で維持されるためには,変化への正当で的確な評価が,社会的良識のもとに,厚みをもった層による合意として共有されていることが重要である.その層が確実に保たれることは,信頼感を伴った社会の成熟のためには不可欠である.それは,いわゆる科学者や研究者のみで閉じて構成されるべきものではない.
君たちすべてがその層の構成員になっているのである.」

井上研三 著「素粒子物理学」あとがきより引用

http://www.kyoritsu-pub.co.jp/app/file/goods_contents/82.pdf